執筆者 : 沢畑 亨
くまもと食・農ネットワーク会員や当サイトをご覧の皆様に、くまもと食・農ネットワーク運営委員の、日頃の地産地消に関する活動や考えをご紹介することで、皆様の更なる地産地消活動への一助にしていただくため、当ネットワークの運営委員によるリレーコラムを掲載しています。
第49回目は、沢畑亨さんです。
ブラックツーリズムのすすめ 私は熊本県水俣市の山間部、久木野地区にある「愛林館」の館長です。水俣市が建てたむらおこしの施設で、管理している地元の住民団体の一員として19年目になります。 さて、表題の「ブラックツーリズム」とは何でしょう? 地域の良さを自慢し、わかってもらうのがグリーンツーリズム。読者の皆さんも、どこかへ出かけておいしいものを作ったり、良い気分になったことがあるでしょう。または、田舎にお住まいで、よそから来た方を迎えたことがあるかも知れません。美しい風景、きれいな川、取れたての農産物、気持ちの良い森といった、山里ならごく当たり前のものが、よそから来た方には当たり前ではない、ということに気づいて、そこをしっかり見てもらい、お金もいただく活動は広く展開されています。 地域の良いところの自慢がグリーンツーリズムならば、ブラックツーリズムはその次の段階で、地域のあまり良くないところも見てもらい、そこから立ち上がるところに共感してもらうものです。 我が久木野地区は90%以上が森林。森林のうち90%が人工林で、スギやヒノキがたくさん育っています。植えて草を刈ってようやく大きくなった木ですが、樹齢10年くらいで枝同士が触るようになって、太陽の光が地面に届かなくなります。 そのままに放っておくと、林の中は真っ暗になって植えた木以外の植物が育たず、土はむき出しになります。木の葉から落ちる雨のしずくが土を叩き、流れ出てしまいます。 また、ようやく収穫の時期を迎えた林では、広い面積を一度に切って、大きな機械が山の斜面を走って丸太を運んでいます。あまりに木が安いので、安上がりの方法を追求して出た解答です。幅が2m以上ある、キャタピラーのついた重機を走らせるためには山を削らねばなりません。 こうした、環境にはあまり良くない状態の森の現場を隠さずに見せること、これがブラックツーリズムの第一歩です。よそからのお客さんは、林業の現場を初めて目にして、驚くでしょう。 植林の苦労、下草刈りの苦労、間引きを躊躇する気持ち、間引いた小さい木を売るつもりが売れなくなってしまった見込み違いなどを説明すれば、お客さんはわかってくれるものです。 収穫の現場では、傷だらけの山には誰しも痛々しい思いを抱くでしょう。伐採業者だって同じ思いを抱いています。でも、法律が許す中で、少しでも安くするために手持ちの機械を使ったらこうなっただけのこと。合法的な行為ですから、責めるわけにはいきません。 で、これからどうしますか? ブラックツーリズムはそこまでお客さんに問いかけます。山にスギとヒノキを植えて、きちんと手入れをすると、健全な森になります。降った雨を浄化し、貯めて、土を作り、酸素を作り、景色を作り、多くの生き物が暮らす場所を作ることができます。森のめぐみはたくさん出てきます。 でも、森を育てるだけではお金にはなりません。木を伐って売って、ようやくお金になるのです。 そこで私は「森のめぐみにお金を出してくれませんか」とお願いしています。森の手入れをすることがお金につながれば、森の土地を売る人も減るでしょう。外国資本の土地買い占めが心配ならば、そういう制度を作って対抗しましょう。他に、間伐をしませんか、森の手入れをしませんか、という呼びかけもしています。 こうすると、たいていの方は、森を放っておいてはいけない、という気持ちになってくれます。悪い状態から立ち上がる努力に共感する心優しき人は、実はたくさんいるのです。 この共感こそブラックツーリズムの神髄。人生悪いことばっかりじゃないですね。 (季刊「九州の食卓」12年春号掲載「沢畑流ブラックツーリズム講座」を改変)
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