A Prayer Carried Across the Sea – Pesceco, Takahiro Inoue
4部作の最終章、天草シリーズエピローグの語り手は、
pesceco・井上稔浩さん。
島原半島の南端。目の前に広がる有明海を見渡し、その先に浮かぶ湯島、
そして天草の島影を眺めながら、井上稔浩シェフは今日も厨房に立つ。
「島原から見ても、天草の海は圧倒的な魅力に溢れている。その理由は、そこにある
海そのものだけでなく、そこに生きる『人』の魅力に惹かれているからだと気づいた
んです」
井上シェフが日々通う畑から望む海。
島原半島と天草は、行政の線引きを超えて、古来より一つの豊かな内海として密接に
影響し合ってきた。しかし、その豊かな自然の美しさのすぐ側で、土地が抱える問題
もまた、日増しに大きくなっていることを彼は痛感している。
「みんなが思い描くような『のどかな田舎の風景』というのは、いまや幻想に近い。
環境も土地柄も、過去のものになりかねないほどの速さで変化しているんです」
料理人は食材がなければ何も創ることはできない。
土地の恩恵を一身に受けている自覚があるからこそ、いま、この土地とどう関わるべ
きか。井上シェフが出した答えは、地域の垣根を超えた「お互いを思いやること」
だった。
生産者が守り育てる魚、職人が醸す結晶、そして料理人が守る藻場。
天草の海を守る仲間たちと繋がりを深めるなかで、井上シェフは「美味しい」という
体験を通して、人にも自然にも良い影響を与えられる仕事を志す。
「海の向こうにいる、仲間たちのことを思いながら。僕の仕事が、未来に続くもので
ありたい」
海を眺めるその眼差しは、対岸の天草を、そしてまだ見ぬ次の世代の食卓を、静かに、
しかし力強く見つめている。島原と天草。二つの土地が海で結ばれたとき、この物語
は「ひとつの食圏」として、新たな希望を宿していく。